予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
「っ……気がついた?」

パッと花が咲くように頬を緩めたその顔、柔らかな響きの声は、ミリアがつい最近目にした顔であり、声だった。

「良かった~。あなた私のこと見るなり速攻で目を回して気絶しちゃったのよ?あなた丸1日意識がないし、もう私のせいで死んじゃったりしたらどうしようかと思ったわ。これで死なれたら悪霊認定されて成仏できなくなりそうだもの」

……なんだろうか。これ、一見ミリアを心配していたように見せて、実は己のことしか頭にないように思える。

ミリアはいまだ意識はどこか朦朧としながらも、目つきだけは胡乱に幽霊である女性を見上げた。

「……んで?」
「ん?」

こてんと首を傾げる様は、いっそ無邪気でさえある。
顔立ち自体は少々キツめであるものの、けして悪霊には見えない。けれども女性の告げた言葉の、少なくともミリアにとっては非常に重大な一つが真実でなかったことは事実だ。

「なんで?どうしてーーーここにいるの?」

女性の背後に透けて見える景色。
それはミリアの見知った場所だった。

あの礼拝堂の床下ではない。
白い天井から吊られた瀟洒なシャンデリアと、その奥に見える華奢なガラス細工のキャビネットも。
あの狭い石壁の部屋にはなかったもの。

ここはラーナの、ミリアがパーティーに訪れていたイグゼフォン伯爵家のタウンハウス。
その本邸の客室である。

いつもこの邸に泊めてもらう際にミリアにあてがわれる部屋だから、間違いない。

「あなた……『ここから出れない』って、言った」

声を出すたびに、喉が痛む。
カラカラに乾燥して、引きつるようだった。

「あ、あーっ、とそれは」

ーーーたぶん、と言いかけた女性の声に被さり、キィ……と音がした。

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