予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
彼女が姿を見せた瞬間、ミリアはズキンと胸が痛むのを自覚した。

大切な親友。
姉妹も同然に過ごしてきたはずの幼なじみ。


ラーナは、いつも通りの、いや親友を心から心配していた少女の顔で、ミリアの前に現れた。

「ミリア!」

侍女に助けられながら重ねたクッションを背に半身を起こしたミリアに、ラーナは部屋に入るなり喜色を浮かべて駆け寄ってくる。

パーティーで高く結い上げられていた黒髪は下ろされ、動きにつられてサラサラと揺れた。

シンプルなアイボリーのドレスは首筋まできっちりと肌を隠す高襟に小さな飾りボタンの着いたもの。  

ミリアはその隠された首筋を見つめてしまう。


あの時。
ロアンはその首筋に唇を寄せていたから。

「良かったわ!気がついてくれて。あなた、いつの間にかいなくなったと思ったら使っていない古い礼拝堂で倒れていたっていうんですもの!お医者様は大丈夫って言っていたけれど、私、本当に心配で……。何度も様子を見にきては手を握って声をかけていたのよ?」
「……手を?」 

では、夢うつつに誰かが手を握ってくれていたように思ったのはラーナだったのだろうか。
目覚めた時にすぐそばにいたのが幽霊だったから、てっきり彼女だとばかり思っていたが。

それにしてもラーナはあまりにもいつも通りだった。実はあの時庭で見た二人の姿も現実ではなく夢であったと言われてしまえば、そうなのかと思ってしまいそうほど。

けれど夢ではない。
その証拠に、ラーナのすぐ傍らには幽霊である女性がプカプカと宙に浮かんでいるのだから。
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