予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
色褪せた赤茶色の皮の表紙の分厚い本は、確かに礼拝堂の床下で箱の中に入っていたものだった。

「……なんでこれがここに?」

ミリアは恐る恐るベッドから身を起こし、それを見下ろす。

ところどころ傷んで皮の剥がれた様子も中の紙が黄ばんでいる様子も同じ。

金糸の文字で描かれたタイトルと、その周りを縁どる蔦のような模様の縁取りも。

「ーーーん?」

そっと指先で金糸の文字をなぞって、ミリアは首を傾げた。

「タイトルが、変わってる?」

礼拝堂の床下の狭く薄暗い部屋の中、ミリアが見た本のタイトルは確か……。

「ぇ、と《アクセリナ王国物語~薔薇の乙女と白百合の魔女~》よね?」

ミリアが一人でブツブツつぶやいていると、

「ええ、そうよ」
 
とすぐ脇でそろそろ聞き慣れてきてしまった女性の声が応える。

視線を上げると宙に浮いた女性の幽霊がミリアとその本を見下ろしていた。

「……何十、いえ、何百回と見たんだもの。間違いないわ。この本のタイトルは《アクセリナ王国物語~薔薇の乙女と白百合の魔女~》だった。ーーー今は違うけど」

 ゆっくりと幽霊の透けた腕が伸ばされて細い指先が表紙を撫でる。

「前は私と彼女の物語だった。私の、だった。でも今は違う」

ああ、と何かに納得したように息を吐いたような仕草をする。
実際、息をしているものなのかはわからないけれど。

「……そういうこと」

一人で納得して頷く彼女の様子にミリアは少しだけイラッとした。
一人でしたり顔をしていないで是非しっかり説明してほしいものだ、と。

でなくてもここ短期間の出来事のすべてが濃厚に過ぎてすでに頭は飽和状態なのだから。
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