私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
* * *
ゆりは廊下を駆けた。途中で何度か足がもつれ、転びそうになりながら必死になって走った。
下の階からは、二階だろうか、一階だろうか、それは分からないが、時折悲鳴が上がる。願わくば、三条家の者の悲鳴でない事を祈った。
「誰か、三条家の人に、この呪符を渡さなきゃ!」
叫んだ方が良いだろうか? それとも、叫べば敵を呼ぶだろうか? ゆりは迷い、叫ぶ。
「誰か! 三条家の方! いませんか!?」
だが、応答はない。ゆりは足を止めて、息を整えた。この先、真っ直ぐに廊下を行けば階段がある。
ゆりは、大きく息を吸う。キッと前を睨み付けた。
「行くしかない。助けなくちゃ!」
一人でも多くの人を、逃がさなくちゃ――。ゆりは決意を固めた。