私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
* * *
間空は、陽光光る窓の外を睨み付けていた。
指の先程しか身動きの取れない人間と、落ちそうになる身体を必死に保とうと、両翼を動かし続ける騎乗翼竜は、顔を歪めるばかりだ。
間空は中指を小さく振る。すると、中央にいたシジャクの首にあった結界が解けた。
間空は、微かに硬い声音で切り出した。
「……風間は、どうなった?」
シジャクはどことなく申し訳なさそうな表情を浮かべたが、すぐに稟とした表情に変わった。
「先程、処刑されたと報告が入っている。絞首刑だったそうだ」
「……そうか」
間空はぽつりと呟いた。
心の半分では、覚悟していた事だった。だが、理性と感情は時として相反する。間空は発狂して、泣き喚きたい衝動に駆られた。嘘だと否定したい。泣いて、喚き散らして、この場に居る功歩軍全てを皆殺しにしてしまいたい。――だが、間空は微笑(わら)った。
「では、君達は捕縛させてもらわねばな」
ここで兵士を生かしておいても、命を狙われ続ける可能性はあるが、ここで兵士を殺してしまえば、確実に一族が絶えるまで戯王に刺客を送られ続ける事になる。十五代戯王は背反や反噬を決して許さなかった。間空はそれを深く理解していた。
間空は懐から、三枚の呪符を取り出した。
「穿(ゲキ)」
三つの呪符が撓り、兵士達を捉え、窓の外から屋敷の中へ引きずり込んだ。それと同時に、右手を強く握り締めると、外に残された騎乗翼竜が甲高い叫び声を上げ、胸から血飛沫を上げた。騎乗翼竜は、そのまま落下していく。
床に、こめかみを擦りつけて引き倒されたシジャクは、唸るように呟いた。
「無駄だぞ」
振り返った間空に、シジャクは憫笑(びんしょう)した。
「こちらには、大量に用意された消者石がある。今頃はこの屋敷だけでなく、センブルシュタイン城にいる渡歩も捉えられていよう」
シジャクが公言すると同時に、新たに翼竜部隊が部屋の外を囲んだ。
彼らの巨大な槍の先端には、麻袋が取り付けられている。
(あの中に消者石が……)
間空は構えを取った。
「だから――」
「やってみるが良い!」
シジャクの言葉を遮って、間空は高らかに吠えた。
「我等が三条一族、伊達に六百五十年戦い続けておらぬわ!」