何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
天音はその声の主が心配になり、居ても立っても居られず、そっと部屋を出た。
そして、天音は部屋を出て、自分の勘を頼りに、城の長い廊下を歩き始めた。
城の中は静まり返っていて、闇と同化している。そんな暗闇が、どこか薄気味悪い雰囲気をかもし出している。

「…どこにいるのかな?」

しかし、そんな雰囲気に一切のまれる事なく、天音は進んでいく。
その声の主がどこにいるのかは見当も付かないが、なぜか足は勝手に動いていく。

まるで何かに吸い寄せられるかのように…。

「…あの扉なんだろう?」

そして、天音が辿り着いた先には、見たこともない大きな扉があった。

「十字架…。」

そしてその扉には、十字架が描かれている。
まるで何かの印を表すかのように。

「た、すけ…て…。」
「え…。」

その声は、確かに扉の中から聞こえてきた。

「ここにいるのかな…。」

…大丈夫だよね…。ここには月の印ないし…。
そう自分に言い聞かせて、天音はその重く厳重そうな扉に手を触れた。すると、全く力入れていないはずなのに、簡単に扉は開いた。
それはまるで魔法のようだ。

「誰…。?」

その扉のある部屋の奥から、その声が今度は、はっきりと天音の耳へと聞こえた。

「え、あの…。」

…やっぱり、この声だ。間違いない。
天音は確信した。この声こそ天音が探していたもの。

「召使い…じゃなさそうだね…。」

その声は、やはりどこかまだあどけなさが残る、少し高めの少年のような声だった。

「あの、ごめんなさい勝手に入って。あの、私怪しいものじゃなくて、妃候補で…。」

天音は、しどろもどろになりながら、恐る恐るその部屋へと足を踏み入れ、奥にあるベッドの方へと目をやった。
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