何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「…あなた…。」
そこにいたのは、満月の夜に会った青い目の少年だった。
彼は肌触りの良さそうなパジャマを着て、ベットの上で上半身を起こし、座っていた。
「あの、こないだ会ったよね…?あの満月の夜に…。」
「え?ああ…。君か……。」
「ごめんなさい。扉にふれたら、急に扉が開いて…。」
天音は勝手に部屋に入ってしまった事を、必死に弁解しようと、そんな事を口にした。
しかし、彼の表情は暗がりでよくわからないが、怒ってはなさそうだ。
「扉が開いた?……君…もしかして…。」
彼の声が微かに震えた。
「————天音?」
そして、消え入りそうなか細い声で、確かに天音の名を呼んだ。
「え…?」
天音の鼓膜にしっかりと届いたその音は、確かに自分の名前だった。
まさかその声が、自分の名を紡ぐとは天音は全く予想などしていなかったため、彼女の体は固まったまま動けずにいた。
「その声…。そうだろ?それに、この扉を開けてくれた。」
「へ?あ、あの…。」
彼の声はさっきまでの弱々しい心細い物ではなく、弾んでいる。しかし、天音は混乱するばかりで、彼の話についていけない。
彼とは面識はないはずだが、なぜ彼が自分の名前を知っているのか?その事ばかりが天音の頭をグルグル回る。