何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「ありがとう。」
「え…。」

すると、突然彼のその青い目からは、一筋の涙が流れた。
天音は彼の突然の涙に、目を見開いて、息を飲んだ。
そして、何故か思った。

————こんな綺麗な涙を見た事はない。

「天音。」

そして彼は、どかか懐かしむかのように、そっとその名を呼んだ。

「…あの、ごめんなさい、私とどこかで会った?」

しかし、天音は考えても考えても、彼の事は見覚えもなく、彼との間には大きな温度差が生まれつつあった。
しかし、その声は、聞き覚えがあるように思えたが…。

「…ああ。昔に。」
「えっと、昔?いつだろ…。」
「すごく昔…。」

彼はどこか少し寂しげに、その青い瞳を伏せた。
そんな彼に気づく事無く、天音はなんとか思い出そうと記憶を必死に辿っていた。

「村で会ったのかなー?」

しかし天音は記憶を辿っても、やはり彼の事は思い出せない。
こんなきれいな瞳を持った、彼の顔を忘れるはずなんてないのに…。
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