何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「本当に真っ暗だなー。」

そして最後の天音も、その扉へと案内され、真っ暗な道を前にしていた。
先は全く何も見えない。この暗闇の中を一人で行かなければならないのだ。
天音は心細い気持ちを押し込めて、一人その闇の中へと足を踏み入れた。

「天音。」

しばらく歩くと、その懐かしい声が天音を呼んだ。

「じいちゃん?」

その声に天音は思わず足を止め、周りをキョロキョロと見回した。
その声がじいちゃんの声なのは、確か。十何年一緒に暮らした天音が聞き間違えるはずはない。

「幸せになるんじゃよ。」

するといつの間にか、天音の前にじいちゃんが現れ、悲しそうにそう言って笑った。

「え…?」

そんなじいちゃんの表情は、今まで天音が見た事のないものだった。
そのじいちゃんの顔に、天音は戸惑いの表情を浮かべた。

「お前の思う道を行きなさい。」

しかし、目の前に立つじいちゃんはそう言って、いつものように柔らかく笑った。

「うん。」

…じいちゃん、大丈夫。私妃になるから。そして必ず村に帰る!
その決心を胸に、天音はまた真っ直ぐ歩を進めた。
< 115 / 339 >

この作品をシェア

pagetop