何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「あれ？」

その瞬間、幻であろうじいちゃんは消え、遠くには赤い明かりが見えた。

「…い…きて…。」
「誰…？」

遠くから、どこか懐かしい女の人の声が聞こえた。
天音がまたもやキョロキョロと見回しても、その声の主の姿はどこにも見当たらない。

「火！？」

すると突然、急に辺りが明るくなったと思ったら、天音の周りが、突然炎に包まれた。
天音はまた足を止めて、どうしたらいいのかわからず、オロオロと周りを見回した。

「……ね。」
「え？」
「石を…おねが…い。…生きるのよ…生きて！天音ーーー！！」

その言葉を耳にした天音は、大きく目を見開いた。

……その言葉は前にもどこかで………？

「誰…？」

天音が震える声で問うが、答えは返ってこない。

『道は一本道』

しかし、その時天音の頭には、士導長の言葉がよぎった。

「だめだ！！真っすぐ進まなきゃ！」

天音はその声が気になって仕方ない。
しかし、その声の方へ行きたい気持ちを押し殺して、前へ進もうとした。
ここで立ち止まってしまっては、この試練を乗り越える事はできない事は明確。

「私は妃になるんだから！！」

なぜか急に、どこからともなくおしよせた不安を消し去るように、天音は叫び、歩を一歩前へ出した。

「…り…が…う……」
「え？」

すると、また別の声が後ろから聞こえ、天音は肩をピクリと震わせ、足を止めた。

「————神様…。」

その時、急に強い光が天音を照らし始めた。天音は、その光に目が眩んで下を向いた。

「…やくそく……。」

その光と共に、また声が聞こえた。

…その声は良く知っている……。そう、この声は…私……？

「まぶしいー！」

そして天音は強い光に、思わず目を固く閉じた。