何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「平和か…。」

その頃京司は、城の前にある大階段に座って、城下町を眺めていた。
今日の彼は顔を布で覆ってなどいない。服装も彼が持っている中で一番シンプルで飾り気のない服だ。
この格好ならば、誰も自分を怪しむ事などない。
この頃は、あまりこうやって外に出る事はなかったが、幼い頃は、この城が嫌になって、よく城を抜け出していた。
今日は昔のルートを使って、こっそりと城を抜け出していたのだった。

「アハハハ！」

広場で遊んでいる子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。

「こんな所で何してるん？」
「！？」

急に誰かに話しかけられて、京司はビクッと肩を震わせた。

「…誰だ？」

そして、京司は警戒しながら、その声の方をゆっくりと見た。

「ん？わい？一般町民。」

そこには、ニコニコと笑いながら京司を見下ろす、りんが立っていた。

「あんたは？」

そう言ってりんは、何の躊躇もなく、京司の横に腰かけた。

「え？」
「お偉いさん…？」

そう言ってりんは、いたずらにニッと笑った。

…こいつは、自分の正体を知っている？
京司は直感的にそう感じた。

「さあ？きっとそんなんじゃねーよ。」

しかし、京司はそんなりんの問いに対して、慌てふためく事はなく、ぶっきらぼうに答えてみせた。

「へー。ホナ見せてもらわんと。」
「は？」
「当たり前やろ、天師教なんやから。」

城の外に一歩出れば、誰も自分が天使教だなんて気づかない。そう思っていたのに…。
しかし彼は、いとも簡単にそんな京司の考えを打ち砕いて見せた。