何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「お前。」
「お!どうやら大正解みたいやな。わい、こう見えてめっちゃ勘がいいんや!」

目を細めて、りんをいぶかし気に見る京司に対して、やっぱりりんは、ニコニコ笑いながら話し続けた。
その笑顔の奥には、何かを隠しているに違いないが、その真意は掴めない。

「この国はおかしいな。」

しかし、京司も直感で感じていた。
この男は自分に危害を与えるような者ではないという事を。
京司は警戒を解いて、そんな事をポツリとつぶやいた。

「そういう事や。」
「あんな、即位式やっても、顔なんて見せようとはしない。そんな奴を信じるなんて。」
「わいは、顔見なくても、なんとなーくわかったで!あんたの髪型、背格好…。わいはちゃーんと見とったからな。」

りんは自身満々に答えた。
そう、りんは何だかんだ言って、あの時ちゃんと遠くからでも、天使教の姿を見ていた。
彼の事を目に焼き付けようと、やっきになりながら。
だからこそ、目の前に現れたその青年が、あの時見た天使教になんとなく似ている事に、すぐ気が付いたのだ。

「変なしゃべり方だな。」
「よー言われる!」
「お前、本当に一般町民かよ。」

天師教かもしれないと気づいていながら、普通に話しかけてくる奴なんているはずない。
そんな京司の常識も、彼には全く通用しない事がよくわかった。
しかし、この男がこうやって普通に話しかけてくるのは、一体なぜだろうか。
その疑問は、頭の片隅に残ったままだった。

「お前やない。わいは、りんや。いや、あんたも変わっとるがな。普通の町民と、こんな所でおしゃべりするなんて。」

りんは全く警戒する事なく、自分の名を名乗ってヘラヘラと笑ってみせた。
りんは余裕の表情を見せているが、やはり内心は驚いていた。
もちろん彼が本当に天使教だという確証はないが、彼がウソを吐いているようには思えなかった。

あの天使教がこんな普通の青年だったなんて。

「俺は…きょうじ。」
「へ?」

そしてそんなりんにつられたのか、京司はなんの躊躇もなく、自然とその名を口にした。

「じゃあな!」

そう言うと京司は立ち上がり、逃げるかのように、走って行ってしまった。

「天使教に名前…あるんかいな?」

りんはそうポツリとつぶやいて眉をひそめた。

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