何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
コンコン

天音はその日の授業後に早速、青のもとを訪れていた。あの日約束したんだから、会いにいかないわけにはいかない。何とか兵士達の目をかいくぐり、方向音痴の天音は、奇跡的に何とかあの扉の前までたどり着いていた。
もちろん、その仰々しい扉をノックをしても、中から応答はない。
こんな分厚い扉にノックした所で、中にいる者に聞こえているのかは疑わしい。

「…入っていいのかな?おじゃましまーす。」

天音は、勝手に入っていいものかと少し躊躇したが、この十字架の描かれた扉に手を触れると、やはり簡単に扉は開いた。

「…こんにちは。」
「天音だね!来てくれたんだ!入って。」

天音が遠慮がちに声をかけると、そんな天音の声を聞いた青は、うれしそうに声を弾ませ、天音を部屋に招き入れてくれた。

「あ、うん。約束したから。」
「ありがとう。待ってたよ天音。でも、こないだはあまり話せなかったけど、君がここに来ていることは、絶対に知られてはいけない。」
「え?」
「この扉は、許された者しか入ってはいけない事になっている。ましてや、君は妃候補なんだろう?」

天音が、初めてこの部屋に来た時に感じていた事は、正解だったようだ。
この部屋は普通の人間が、ましてや妃候補である天音が立ち寄ってはいけない場所なのは、明らかだ。
でも、青は、なぜそんな場所に…?このだだっ広い部屋に一人きりなんだろう?
そんな彼は、まるでこの部屋に閉じ込められているようにしか見えない…。
天音の脳裏には、自然とそんな疑問が湧いていた。

「青はどうして…。」

そんな疑問を、恐る恐る青に投げかけようと天音が口を開いた。

「僕は誰にも会ってはいけないんだ。仕方ないんだ…。」
「え…。」

天音からの疑問をすぐに察した青は、彼女の言葉を遮るようにそう答え、その寂しげな瞳を伏せた。
すると、天音はそんな寂しい青の顔に、何も言えなくなってしまった。
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