何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「まだ!?」

天音は辰に案内すると言われ、言われるがままについて来ていたが、その道のりは簡単なものではなく、険しかった。
険しい山道を、もう30分は登っている。
月斗のいる裏山よりも、さらに険しいこの道に、天音はギブアップ寸前のうなり声を上げていた。

「もう少しだ。」

しかし普段から鍛えているであろう辰は、こんな山道をものともせず、平然とした顔で天音の前をズンズン歩いて行く。

「まったく、何でこんな山の中なの!!」

天音は文句を言いながらも、必死に辰について行く。
もう後戻りはできない。

―――― 私は知らなくちゃいけないんだ。

いつしかそんな思いが、天音の心を支配していた。
そして、その思いが天音の足を何とか前へ進ませている。

「ほら。もうそこだ。」

そう言って、辰が今まで見たことのない優しい笑顔で、天音に手を差し伸べた。
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