何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「士導長様…。」

天音は、夕食もまともにとることができず、その夜、まだ目が少し赤いままで、また士導長のもとを訪れていた。

「天音?どうしたんじゃ?」
「すみません…。でも、どうしても今聞きたい事があって…。」
「…何じゃ?」

天音は、こんな夜中に訪ねてしまった事を申し訳なく思い、恐縮していた。
しかし、いてもたってもいられなくなり、彼の元へと来てしまった。
士導長もまた、天音の何か思いつめたような表情を察し、少し心配そうに彼女を見つめた。

「本当は、知ってるんでしょ?」

天音は、しっかりと士導長の目を見て、今度は恐縮する事なく、しっかりとした口調で問う。

「この間の反乱の話の結末を…。」
「…。」
「反乱を率いたその女性は、死んだんでしょ?だから反乱は失敗に終わった。」

士導長は、天音のその問いに口をつぐんだまま、うんともすんとも言わなくなってしまった。
しかし、天音はどうしても、確かめたかった。いや、確かめなくてはいけなかった。

「…ジャンヌダルク。」

少し間をおいて士導長がようやく口を開いた。

「え…?」
「それは、今よりずっと昔、この地球国ができるもっと前…。ジャンヌダルクという女性がいたそうじゃ。」
「ジャンヌダルク…。」

そのどこか、不思議な音を奏でる名前を、天音は口に出して、反芻してみた。

「ある国と国の大きな争いの中で、彼女は神の声を聞き、国を勝利へと導いたそうじゃ。」
「神の声…。」
「しかしその不思議な力を、いつしか人々は恐れるようになり、国の権力者達は彼女を魔女だと言い張り、処刑した。」
「え…。」

天音は処刑と言うその言葉に、言葉を失った。

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