何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「…それは、僕にはわからないよ。」

少し間を置いて、その少年が京司の問いに、申し訳なさそうに答えた。

「…。」

(…夢だからって、俺何言ってんだ…。)

京司はバツの悪そうな顔を見せ、下を向いた。
どうしようもないこの気持ちを誰かにこんな風に爆発させたのは、初めてだった。
そう、それは全て夢だから…。

この城に来てから、自分の気持ちを押さえ込むのが、当たり前になった。
そうしなければ、この重圧には耐えられない。
ここでは生きてはいけなかった。

「…もう帰った方がいいんじゃない?」
「え…。」

京司は急に彼に帰れと言われ、戸惑った。
しかし、自分のした事で彼が不快な思いをしても不思議ではない。
しかし、自分には帰る場所なんて…。

「きっと、君を待っている人がいる…。」

その少年は、京司の気持ちを知ってか知らずか、そんな言葉を優しくかける。

「…本当にそんな人いるのか?」

京司は少し不安気に、顔を上げた。
あそこに戻っても、何にもいい事なんてない…。
そうどこか諦めていた彼の瞳には、今は絶望しか映っていない。

「その人達が、きっと答えを教えてくれるよ。」
「答え…。」
「君が何者なのか…。」

彼は、全てを知っている。
京司には、なぜかそんな気がしてならなかった。
彼の澄んだ瞳には、そう思わせる何か不思議な力があった。
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