何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「お前は?まだここにいるのか?」

京司は、そんな彼の事が気になってきて、思わず尋ねた。
彼は、この夢の中だけの住人なんだろうか…と…。

「うん。でも、いつかは、ここを出なきゃいけない時が来る。」

少年は、少し寂しそうに遠くを見つめた。

「外の世界に行きたくないのか?」

その寂しそうな表情が、京司には気になって仕方なかった。
どうしても、そんな彼の事を放ってはおけなかった。

「僕は目が見えないんだ。」
「え…。」
「昔から原因不明の病で、徐々に見えなくなっていった。最近までは、少しぼんやり見えていたけど、もう完全に見えなくなった。」

彼のその青い目には、悲しいかな何も映らない。

「僕のこの青い目は呪われている。」
「そんな事ねーよ!いいか。外には涼しい風もあるし、いい匂いのする花だって、綺麗に鳴く鳥もいるんだぜ。」

京司は、なぜかムキになってそう言った。彼のどこか諦めたようなその表情を、何とかしたかった。

「アハハ。何でそんなムキになってんの?知ってるよ。外にも素晴らしい世界があるって事は。」

すると、少年は声を上げて笑った。 それは、彼が初めて見せた笑顔だった。
その瞬間はだけは、その瞳から悲しみの色が少しだけ薄まってみせた。

「…ああ、そうだな。外の世界は…自由だ…。」

京司は、まるで自分に言い聞かすように、低い声色でつぶやいた。
彼だけじゃなく、京司もまた外の世界に憧れている。

「君は…。」

少年は何かを言いかけ、口をまた閉じた。

「何だ?」
「いや、僕は僕で、君は君。」

少年は少しだけ間を置いて、またゆっくり口を開き、京司を真っ直ぐに見た。
その真っ直ぐ自分を見つめる彼の目に、自分が写っていないなんて…と京司は思わず疑いたくなった。

「…ありがとう。」

そんな京司の口からは、自然と感謝の言葉がこぼれ落ちた。
なぜなら、京司は彼と話して、少し心が楽になった気がした。
自分の中にある何か黒いモノが、少しだけ薄まった気がした。

「…君の願い叶うといいね。」
「え…。」

少年は京司に突然そう言って、柔らかく笑った。

フッ

その瞬間、京司はその夢の世界から姿を消した。



「君は、本当に変わってないね…。」

一人そこに残された青が、ポツリと小さくつぶやいた。



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