何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「…」
病み上がりの京司は、自室から窓の外をただぼーっと眺めていた。
もちろん、京司の元にも月斗の件は報告が上がっていた。
彼が、なぜそんな無謀な事をしたのか、京司にはやっぱり理解できずにいた。
「…天音?」
いつもと変わらぬその景色の中に、京司はなぜか天音を見つけた。
人が大勢行き来する広場の中で、京司の部屋からは、人なんて豆粒のように小さく、それが誰かなんて普段は気に止めた事はない。
しかし今は天音の姿だけが、まるで浮かび上がるかのように見えた。
「…。」
京司の足は自然と動き出し、いつのまにか部屋を出て走り出していた。
京司はただ夢中で走った。
「はぁ、はぁ。」
なぜだろう、彼女の背中がいつもと違って見えた。
どこか心許ない、まるで消えてしまいそうな…。
京司は、何故だかそんな不安にかられた。
『きっと、いろいろあって、心細くなったのでしょう。』
「天音!!」
京司は、病み上がりとは思えないほど全速力で走り、トボトボと歩く彼女にすぐに追いついた。
天音はその声にすぐに振り返り、彼の姿を見つけた。
「京司…?」
「はぁ、はぁ。」
京司は息を切らしていて、なかなか言葉が続かない。
ずっと横になっていたからか、まだ体力は完全には戻ってはいなかった。
「なんか、久しぶりだね。」
やはり近くで彼女を見ると、天音のその表情はいつもとは違っていた。それは京司には明らかだった。
いつものように、キラキラと輝く笑顔はそこにはない。
「どこに行くんだ?」
そんな天音に、京司は大事な事には触れずに、何気なく会話を始めた。
「あやまりに…。」
「え?」