何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「ここへ来ていろんな人に出会って、いろいろ知った。」
「天音…。」

天音のその表情は、華子が今まで見た事のない表情だった。

「私にこの国を変える事はできない。」

星羅は、そんな天音を見つめたまま、微動だにしない。



「―――――でも、この国を好きになる事は誰でもできる。」



「…。」

星羅は口をつぐんだままだった。

『わいは天音が妃になると思うで!』

彼がそう言った意味が、少しわかった気がした。
しかし、彼女は妃になりたいと言うのだろうか?…全てを知ってもなお…。

「ねえ、星羅歌ってよ!」

この空気に耐えられなくなった華子が、静寂を破り、何故か唐突にそんな事を言い出した。

「え?」
「いいじゃん。今日はいい事あったし。景気づけに一発!」
「え!私も聞きたい。星羅の歌!」

そんな突拍子のない事を言い出した華子に、天音も便乗しだした。
さっきまでの重苦しい空気は吹き飛び、部屋には暖かい夕日の光が差し込んでいた。

「ね!お願い!」

いつもしつこい華子だったが、今日はさらに拍車がかかって、一歩も引く様子はない。

「星羅、歌って!お願い!」

天音もどうしても星羅の歌を聞いてみたくて、ダメ元でお願いしてみた。


『星羅!歌って!』



「…わかったわよ。」

星羅はとうとう、観念した。
なぜだか、今日はどうしても拒めなかった。
それは、彼女達の純粋な目が、あの日の彼に重なったからだろうか。
彼女達の前で歌うのは、これがきっと最初で最後…。

そんな軽い気持ちで、星羅は大きく息を吸った。


♪~♪~♪~

その日聞いた星羅の歌声は、とてもきれいで澄んでいた。

まるで、空に輝く星のように…。

その日の歌声は一生忘れる事はない。

そして、またこの歌声が聞ける日が来る事を、天音は心の片隅で願った。
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