何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「すっごーい!!」

天音は、活気ある城下町を歩きながら、驚きと興奮の声を上げた。

「やっぱ、即位式の後だから、町も賑やかだね。」

華子もそんな天音の様子を見守る母親のように、微笑んだ。
城下町では即位式の後もまだお祭り騒ぎで、お店も活気づいていた。

「うわー、おいしそうな野菜や魚がいっぱい!」
「どんだけ食いしん坊なのよ!」

なんでもかんでも珍しがる天音を、華子がクスリと笑った。

「じいちゃんにも食べさせてあげたいなー。」

しかし、天音はここでもまたじいちゃんを思い出し、おもわずこぼした。
じいちゃんもここに売っている食べ物をたべれば、きっと精がつくに違いない。
やっぱりどこに行っても、天音はついついじいちゃんの事を考えてしまう。

プシュー、バンバンバン!!
その時突然、何か破裂するような大きな音が城下町のメイン通りに響き渡り、天音達の周りは、またたく間に辺りが煙に包まれた。

「うわ!!」
「な!何だ!!」
「煙が!」

天音だけではなく、そこに居た大勢の買い物を楽しんでいたはずの人々が、驚きの声を上げる。

「何だこれは?花火?」

ようやく、そのけたたましい音は収まり、その全容が見えてきた時、ある店の店主がそれに気が付いた。
その音の正体はどうやら花火のようだ。
人々の足下には、たくさんのロケット花火や、ねずみ花火の残骸が転がっていた。

「なんだこれは…?いたずらか!?」

店主が回りを見渡したが、それを仕掛けた犯人らしき者は、見当たらない。
どうやら、ただのいたずらのようだったが、その騒ぎを聞きつけ、見回りの兵士も様子を見に来ていた。

「びっくりしたー。ただのいたずらかー。」

華子もただのいたずらと知り、ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間…

「あれ…、天音??」

華子は煙が晴れてきた辺りを見回したが、そこには天音の姿はなかった。
この騒ぎで、通りは人でごった返していたため、華子は天音とはぐれてしまったようだ。
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