何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】


「天音ー!どこ行ったのよ!」

方向音痴の天音の事だ。放っておいたら、どこに行くかわからない。
それを危惧した華子は、お店を一軒一軒回り天音を探したが、一向に天音の姿は見当たらない。

ドン
その時、駆け足で天音を探している華子が、誰かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい!て、あーー!」

華子はぶつかってしまった人の方へ向きなおし、すぐに謝罪の言葉を述べた。そして、目に飛び込んできたその人物の顔を見て、思わず大声で叫んだ。

「ん?姉ちゃん…」
「こないだの人だ!天音助けてくれた!」
「あー、あん時いた妃候補の姉ちゃんか!」

そう、華子がぶつかった人物はりんだった。りんの事をかっこいいだのなんだの言っていた華子は、もちろん彼の顔を忘れるはずはなかった。
しかも、こんな偶然に出会えるなんて思ってもみなかったため、興奮は最高潮だ。
そして、りんも天音を助けた時に会った華子を、もちろんちゃんと覚えていた。

「それより天音見なかった?」

せっかくりんに会えて、もっと色々話したいのは山々だが、今はそれよりも天音を探さねばならない。
さすがの華子も、この時ばかりは私情は後回しにし、天音を探す事に専念した。

「天音?」

まさかまた、その名をすぐに聞く事になろうなんて思ってもみなかったりんは、ぽかんとした顔を首を傾げて華子を見た。
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