私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

「もう二度と殺さないから」

 柚は、一瞬顔をこわばらせて、そして笑った。
 俺は心底嬉しかった。だが、嬉しかった事がもう一つある。
 月鵬と出逢ったことだ。
 月鵬は変わったガキだった。年もそんなに違わねえのに、敬語で喋るわ、様付けするわ。俺や柚を敬うように接してきた。
 そんな事は初めてで、俺も柚も大分戸惑ったのを覚えてる。
 皇龍団には子供もいたが、友達という感じでもなかった。
 俺が小せえ頃、遊んでいた時に、ダチの足の骨を折った事があった。それも、かなり酷く。正確に言えば、折ったんじゃねえな。もいだ。もげかけた……そういうところだ。そいつは、柚の能力で戻ったが、それでもまだ、足を引き摺っていた。
 そして、そいつは回復の見込みなしと見なされて、売りに出された。
 それから、俺はガキどもに敬遠されるようになった。
 だから、ダチといえる者はいなかった。
 
 そんなわけで、俺を慕ってくる月鵬は奇妙に感じられたし、同時に嬉しかった。
 月鵬は、盗賊団の仲間だったという事で、酷い目に遭うんじゃねぇかと心配したが、そんな事にはならなかった。
 月鵬は口が上手かったし、何より、簡単に、命じるまま人を殺した。
 それが当たり前だと言う顔をし、平然としていた。
 俺は、盗賊団を殺した夜、罪悪感や恐怖がふつふつと湧いてきて、布団に包まって震えたもんだったが、この女はなんとも思わねえのかと、俺はひいた。
 実は、俺は当時、月鵬が怖かった。
 だが、時が経つにつれ、それは彼女の生い立ちにあったんだと知った。俺はある日、月鵬は殺しがしたいのかと訊ねてみたことがある。
 月鵬は、平然とした顔で言った。
「そんなわけがないじゃないですか」
 月鵬は、殺しがしたくてしてるわけじゃねえ。命令に体が従っちまうだけなんだ。だから俺は、コイツに殺しの依頼だけは、絶対にしないようにしようと決めた。
 
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