私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~

 * * *


 私は冷たい床石に寝転び、天上を眺めていた。あれからどれだけ経ったんだろう。時計のない牢屋では、時間も分からない。地下なのだから、朝なのか夜なのかすらも分からない。
 静かで、閑散としていて、こんなところに長くいたら、気が狂っちゃうよ。
 泣き出しそうになった時、足音が聞こえた。
 私は跳ね起きて、鉄格子にしがみついた。
 今度やってきたのは志翔さんではなく、兵士だった。
 彼は一言、
「出ろ」
 と告げると、牢屋の鍵を開けた。
 私はもう、嬉しくて嬉しくて、泣き出しそうになったけど、同時に不安もやってきた。

 もし、このまま、死刑とかになったらどうしよう。
 生まれて初めて牢屋に入れられ、しかもその理由が今いちよく解らない。
 あの横暴でヒステリックな志翔さんが、あの娘は死罪よ! なんて喚いていたら。
 私は、殺されるかも知れない。
 そんな不安が、駆け巡った。死ぬかも知れない。そう思ったとき、走馬灯が過ぎった。

 元いた世界の生活、両親の顔。かなこのふざけた顔。沢辺さんの微笑み。この世界にきてからのこと。そして――アニキ。
 何故だか最後に浮かんだ顔は、アニキの笑顔だった。
 私の頭をなでるときの、優しい瞳だった。

 アニキは私を騙していたけど、あの優しい目だけは、本物だった気がした。
 なんだか、無性にアニキに会いたい。
 私は情けない気持ちになりながら、階段を上がった。

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