私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
部屋を覗くと、そこには鉄次さんと亮さんがいた。
その他にも、何人か人がいる。多分、アニキの部下だと思われる男の人が十人くらい。艶やかな着物姿の女性がそれと同じくらい。
だけど、アニキの姿は見えない。
「鉄次! あんた来てたの?」
「あったりまえでしょー! あたしが飲み会に出席しないわけないじゃないのぉ!」
「そりゃそうよね。……亮もいたんだ」
月鵬さんが亮さんに視線を送ると、亮さんは眼鏡を上げながらそっぽ向いた。
なんとなくだけど、月鵬さんがむっとしているような気がする。
「ていうか、月鵬、ゆりちゃん連れてきてなんのつもり? まだ早いでしょ?」
「社会科見学よ」
月鵬さんの冗談に私は声に出さずに、大げさに驚いて、大げさにむくれて見せた。すると、月鵬さんは苦笑して、私の頭を優しくぽんぽんと叩いた。
「ごめん、ごめん」
「まあ、まあ、来たもんはしょうがないわ! 座りなさいよ!」
鉄次さんが座るように促すと、月鵬さんは首を横に振った。
「カシラに用があってきたのよ。どこ?」
「あら、ならなおさら座った方が良いわよ。今、奥行ったから」
鉄次さんがにやりと意地悪そうに笑う。
「ハァ。そう。じゃ、座るわ。ゆりちゃんも座りなさい」
「あ、はい」
月鵬さんが心底呆れたように言って、私に着席を促した。
なので、私は月鵬さんの隣に座った。
ちなみに月鵬さんは鉄次さんの隣、鉄次さんは亮さんの隣だ。
座るとすぐに、他の人達についていた女の人が、お酒を注ぎにやってきたけど、亮さんが迷惑そうな顔をして身振りで要らないとアピールすると、すごすごと元いた場所に戻っていった。
「あの、奥に行ったって言ってましたけど、トイレですか?」
覗きこむように、月鵬さんを跨いで鉄次さんに訊くと、鉄次さんはまた意地悪そうに笑った。
「奥っていうのはね――」
「てーつじ! 子供相手に――いえ、なんでも」
注意しかけて、月鵬さんは言うのをやめた。
それはもちろん、私が睨んだからなんだけど。なぁんか、月鵬さんって、すぐ私を子ども扱いするんだよね!
鉄次さんは少し怪訝そうな顔をしてから、にやりと笑って続けた。