私の中におっさん(魔王)がいる。~花野井の章~
(奥に行ったって言った?)
そう言えば最初から言ってたよね。
私は今更ながら、奥の意味を理解したみたいだ。と言う事はだよ?
アニキは、女の人と……。廊下で見た、あの人と!?
「……!」
私は思わず立ち上がった。
「どうしたの?」
驚いた鉄次さんに訊かれて、私ははっと我に帰った。
「いえ、なんでも! えっと、あの、トイレに!」
「ああ、そう。いってらっしゃい」
月鵬さんは明らかに怪訝な顔をしたけど、鉄次さんは納得したように言った。
鉄次さんにトイレの場所を聞いて、私はそそくさと部屋を出た。
なんと、トイレの場所は『奥』の先だそうだ。
なんでそんな場所に造るかなぁ……。
廊下を歩き出すと、すぐに反対側から明かりを持った女の人がやってきた。
着物をはだけさせた、色っぽい女の人だった。
すれ違うだけでドキドキしてしまう。
思わず振り返ると、私が出てきた部屋に入っていくのが見えた。
(あの人も、あのお座敷の接客の人なのかな?)
しばらく廊下を進むと、ドンちゃん騒ぎで、歌えや踊れの声が聞こえる部屋を幾つか通り過ぎた。
襖越しに見える影は、誰も彼もが楽しそうに笑っていた。
男も女も関係なく、まるで子供みたいにはしゃぐ。
私はその影を何気なく見ながら進んだ。
奥に進むに連れて、その声は徐々に遠くになり、今度は別の声が聞こえ始めた。
苦しそうに喘ぐ声、でも、苦しくて喘いでるわけじゃない。
そうはっきりと分かる、艶かしい声が幾つも、幾つも聞こえてくる。
私は恥ずかしくて、思わず耳を塞いだ。
こんなん、初めて聞いた……!
(トイレなんて、行ったふりだけすればよかったよぉ!)