追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
「長くは降らないって、カーゴが言っていた通りね。……あ、カーゴっていうのは私の元同級生なの」
「ガウ」
ん? そんな事はわざわざ言われずとも、俺の事は俺が誰より知って……い、いかん!! 今はそれどころではない……!
「今度プリンスにも、カーゴを紹介するわね……って、え?」
このままでは俺はアイリーンの前で人型になってしまう! もはや一刻の猶予もない俺は、柔らかなアイリーンの腕を脱し、入口の扉に向かって脇目も振らずに駆け出した。
「ちょっ! プリンス、やだよ!? どうして行っちゃうの!?」
アイリーンが俺の背中に向かい、悲壮感の篭る声で呼び掛ける。
俺とてアイリーンの温かな腕の中を飛び出す事は本意じゃない。だが、このままここに留まっていては……。
だ、だめだ! それだけはできん!
アイリーンの目にあらぬところを晒すなど、できるわけがない! なにを隠そう獣化が解けて人型に転じる際、もれなく俺はすっぽんぽんなのだ。
「ガウッ!!」
また明日、俺はここに……いや、獣姿の俺は次の雨降りにまたここに来る! だからアイリーン、今はさらばだ!
俺は扉を出る直前にアイリーンを振り返り、その瞳に再訪を固く誓った。そうして今度こそ扉を出て、全速力で走った。
俺を見つめるアイリーンの切ない目が、脳裏から離れなかった。