追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
「ガウッ!!」
咳き込む私をプリンスが抱き起こした。プリンスは私を自分の胸に凭れさせると、落ち着かせるようにゆっくりと背中をさすった。
柔らかな温もりと優しいリズムが、私の心と体を鎮めていく。プリンスの胸の中で、徐々に私の咳も治まり、速く短かった呼吸も常の穏やかさを取り戻していった。
プリンスの懐からそっと視線を上に向ければ、揺れる瞳が私を見下ろしていた。プリンスの輝石みたいに透き通るグリーンが、今は憂わしげに翳っていた。
プリンスを安心させたくて、出にくい声の代わりに手を伸ばし、その目元をそっと撫でた。
私が幾度か撫でていると、プリンスは私の手にスリスリと顔を寄せた。私の「大丈夫だよ」が伝わったのか、その表情は心なしか穏やかになっているような気がした。
「ガウ」
プリンスは小さく一声鳴いて、その舌先で私の指をペロリと舐めた。その後は私の顔に鼻先を寄せて、頬と言わず口元と言わず、ペロペロと舐めた。くすぐったくて、こそばゆい。だけどその温もりが、なによりも愛おしい。
「ふふっ、くすぐったいよ」
私はプリンスが愛しくてたまらなかった。
……これまでも大好きだった。だけど今この瞬間は、これまでの「大好き」を凌駕して、プリンスという存在がかけがえなく愛おしいと感じていた。