追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
状況から察するに、舎弟兄弟は本気で『栄養剤』と思い込んでいたらしい。
「だ、黙れおめえら! 細っけえ事つべこべ言ってんじゃねえや!」
アニキは腕に取り縋る舎弟兄弟をドンッと押しやって、声を高くした。
「……黙るのはお前だ、アニキ」
「!」
カーゴの一声で、アニキは一瞬で押し黙った。それだけじゃない、アニキは小さく背中を丸め、憐れなくらいに体を震わせていた。
「三人で明日の日の目が拝みたければ、包み隠さずに話せ」
「ハ、ハイ!」
ヤクザも真っ青のカーゴの台詞を受けて、アニキは壊れた蓄音機のように、物凄い勢いで話し始めた。
「あれは雇われ仕事でこの村に寄った五日ほど前の事だ。コイキ食堂の前で女に声を掛けられたんだ。その日は俺、給料日前で金欠だったんだが、店の前のかつ丼の模型に思わず足が止まっちまったんだ。見れば見るほどかつ丼が美味そうで――」
「アニキ、なにみっともない事してるんッスか」
舎弟からの突っ込みにアニキはビクリと肩を跳ねさせた。
「うるせえや! とにかくだ、一応と思って財布を引っ張り出して見てみたら、案の定、足んねえんだよ。俺は泣く泣く商品ウインドウに背中を向けたんだな。そうしたら突然女が俺の前に出てきて、かつ丼を奢るからちょっと話がしたいって、強引に店に引き摺り込んだんだよ。で、かつ丼を食いながら聞かされたのが今回の儲け話ってわけだ。女が言うには、夜の間にヒミツの薬剤を撒くだけの簡単な仕事だって言うんだよ」