追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 俺は満面の笑みの少女から差し出されるシフォンケーキに噛り付いた。「シッシッ」とされて癪だったが、シフォンケーキはなかなかの味だった。
 ざっくばらんに言えば、ものすごく美味い……! 俺は尾っぽを揺らしながら、生クリームたっぷりのシフォンケーキを頬張った。
 ――クゥ~、キュルル。
 少女の腹から、可愛らしく虫が鳴く。
 耳にして、俺は愕然とした。少女が買ってきたシフォンケーキはひとつで、少女はまるまるひとつを俺に差し出した。そうして少女自身は、俺が食べるのをニコニコと眺めていたのだ。
『ガウッ!』
『私はいいの! それはあなたのよ!』
 俺が「半分食べろ」と差し出せば、少女は首を横に振って固辞をする。俺は更に口を開きかけ、けれどそこで、はたと気付いた。
 ……あぁ、そうか。俺と同じものは食べられないのだ……。
 どんなに少女が優しく手を差し伸べてくれようと、俺は卑しい獣だ。俺が口にした時点で、彼女はもう食べられない。
 思い直した俺は、それ以上彼女に勧める事をせず、残るシフォンケーキを食べ始めた。不思議な事に、あれだけ美味かったシフォンケーキは、すっかり味気なくなっていた。
 忙しく揺れていた尾っぽも、いつの間にかへちょんと垂れた。
『口元に付いてるよ?』
 少女が俺の口元に付いた生クリームを指先で掬い、俺の口に差し出す。俺は反射的に、差し出された指先を舐めた。

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