追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

『……あ、ほっぺにまでくっ付けてる』
 少女は俺が舐め上げた指で、頬の生クリームを掬う。俺はもう一度舐めようと顔を上げたが、少女の指は俺の口には運ばれなかった。
 ……え? 嘘だろう!?
 俺は目にした光景が信じられず、パチパチと瞬きを繰り返した。
『あらっ、なかなか美味しいわね!』
 指先についた生クリームを自分の舌先にペロリと舐め取った少女は、俺に向かって悪戯っぽく微笑んだ。
 俺はシフォンケーキを食べるのも忘れ、眩い少女の笑みに見入った。
 ゴクリとひとつ、喉を鳴らす。
 ……この子は天使だ。優しくて、眩しいくらいに可愛い、この天使のような少女を、俺だけのものにしたい――!!
 意識した瞬間、カッと瞳孔が縦に割れ、全身にエネルギーが満ち満ちる。
『……あ、王立学園の正門にうちの馬車が停まっているみたい。私、行かなくちゃ。本当はあなたの事を連れて帰ってあげたいんだけど、うちのお母様が動物アレルギーで、飼ってあげられないの。……ごめんなさい』
 申し訳なさそうに少女が告げる。どうやら少女は王立学園の正門で家の者と待ち合わせをしていたらしかった。
『ワンちゃん、私は西通り三丁目のアイリーン・オークウッドよ。お小遣いを貯めておくから、絶対にまた一緒にシフォンケーキを食べましょう! またね、ワンちゃん!』
 少女は最後にキュッと俺を抱き締めると、足早に駆けて行った。
 ……俺は、虎だ。どう逆立ちしてもワンちゃんにはなれない。だけど俺がペットになる事で、アイリーンと一緒に過ごす事が出来るなら、ワンちゃんでもなんでもいい! ペットになってアイリーンに飼われたいと、十一歳の俺は本気で思った――。


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