追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました


 あの日の眩しい記憶から、意識が今へと舞い戻る。
 見上げる空は、既に大部分が茜色に塗り替わっていた。灰色を消してゆく眩しい茜色の夕日に、アイリーンの微笑みが重なる。
 十一歳の俺は、アイリーンに心を討ち抜かれた。けれど当時の俺はまだ子供で、アイリーンと一緒にいたいというその気持ちに、明確な意味を見出せてはいなかった。
 漠然とした幼い思いは、しかし巡る年月の中で、段々と輪郭を結んでいった。そうして五年の月日を経て、俺はもうアイリーンのペットになりたいとは思っていない。
 ……俺は、アイリーンの夫になりたい。いや、「なりたい」という表現では生温い。俺はもう、決めている。
 俺は、アイリーンを妻にする――!
 その時、僅かに残る灰色が霧散して、空がパァッと茜色に照らされた。
 ……あぁ、雨が止む。
 窓辺を離れた俺は、備え付けのクローゼットの前まで来ると、鼻先を扉の引手に掛ける。そのまま右に力を篭めれば、目論見通り右にスライドして開いた。
 ハンガーに掛かるバスローブに狙いをつけ、口に咥えて斜め下方向にクッと引っ張る。そうすれば、こちらも目論見通りスルリと落ちて、俺の上に掛かった。

 ――ポポンッ。

 直後、煙に巻かれたような小さな破裂音が上がる。
「……やっと止んだか。この国は急な雨こそ少ないが、降り出すと長いのが難点だ。さて、まずはシャワーを浴び、さっさと課題を片付けてしまわねばな」

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