追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
その日の気温や湿度を見ながら、僅かに分量を加減する。丁寧に生地を捏ね、クリームの状態を注意深く観察しながら、空気を孕ませるように手早く泡立てる……。
お菓子の仕上がりは、どれだけ愛情をかけたかを映す鏡のようだと感じていた。だから、全ての工程に一切手は抜かなかった。そうして手間暇かけて作ったお菓子を食べながら、もうひとつの趣味である『桃色ワンダーランド』に没頭したものだった。
こうして考えてみると、前世の私はずいぶんとお菓子作りにのめり込んでいたのだ……。
「……もったいないなぁ。こんなに美味しいスイーツがあって、あんなに素敵なお店もあって。なのに休業しなきゃならないだなんて」
「ほんとうね」
遠い前世を懐かしく思い出しながらうっかりと溢せば、聞き付けたシーラさんが頷いて答えた。
それを見て、私はハッとして肩を縮めた。カフェの休業を誰よりも残念に思っているのは、部外者の私ではない。休業を余儀なくされたシーラさんなのだ。
「すみません。言っても仕方がない事なのに、私ってば余計な事を……」
「いいえ、謝ってもらう必要なんてないのよ。私自身も、なんとか開けたかった気持ちは同じだもの。とはいえ、この時期にお店を手伝ってくれる人を見つける事なんてできないし、こればっかりは仕方ないわ」
……え? 手伝ってくれる人?
「でもね、あなたたちのおかげで来年こそはって、すっかり気持ちも新たになった。今年だけ私も店も、ちょっとお休みさせてもらうわ」