追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

「苺農業組合で聞いて、いちご狩りのついでに寄らせてもらったんだけど、まさかマイベリー村でこんなに美味しい甘味が食べられるなんて思ってなかったよ」
 初老の男性は苺農業組合の告知を聞き、はじめて来店してくれたようだった。
「ありがとうございます。マイベリー村へは、観光でいらっしゃったんですか?」
「いや、実を言うとね、私は王都でツアー旅行の企画会社を経営しているんだ。王都発のマイベリー村いちご狩りツアーを企画していて、今回はその視察で来たんだ」
「お仕事でしたか。ここではどうぞ一時仕事を忘れ、ゆっくりなさってください。今、温かいおしぼりをお持ちします」
 私はお辞儀をして男性の席を離れた。
「……ふむ、いちご狩りツアーの後にここでの休憩を組み込むのも悪くないな」
 男性の呟きは店内の賑わいに混じり、私の耳には届かなかった。
「こりゃーすごい! ずいぶんと凝った盛り付けをしてみせるな。これはまさに芸術の域だ!」
 感嘆して唸るお客様に気付いた私は、大慌てで駆け寄った。
「すみません、その盛り付けはオープン記念で……。明日以降は、メニューにある盛り付けです」
 お客様に注釈を入れつつ厨房をひと睨みすれば、ルークが得意げに微笑んで胸を張る。
「残念だ、今日だけなのか……ああ! それじゃ、祭りとか記念の日には、ぜひまた頼むよ」
「……そうですね、検討しておきます」
 休む間もなく慌ただしく店内を行き来しながら、私は今までの人生で一番充実した時間を過ごしていた。

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