追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 ……ゼーゼー? 少女は気管支や肺に病気があるのだろうか。もしかすると先に感じた顔色の悪さも、それに関係しているのかもしれない。
「そっか。これはお父さんのためだったんだね」
 少女の答えを聞いた私は新しいカップを手に取ると、もうひとつ苺ミルクを用意して持ち帰り用の袋に包んだ。
「え? お姉ちゃん、私ひとつしか頼んでないよ? それにもうお金が……」
 私の行動に、少女は困惑の声を上げた。
「ふたつで300エーンよ。お父さんと一緒に、美味しく飲んでくれたら嬉しいわ。良い一日を過ごしてね」
 私が差し出す袋を受け取りながら、少女はパァッと微笑んだ。
 弾けるみたいな少女の笑みに、胸が温かな思いで満たされる。
「お姉ちゃんありがとう!」
 袋を手渡すと、私は代わりに少女の手のひらにずっと握られて温もりの移った300エーンを受け取った。
「はい、たしかに。それから、これは冷たい内が美味しいわよ」
「うん! ほんとにありがとう!」
 少女はもう一度礼を繰り返すとくるりと踵を返し、袋を大事そうに懐に抱いて歩き出した。
「気を付けてね!」
 私は少女の背中が道の向こうに見えなくなるまで見送ると、軽い足取りで店の奥の戸棚に向かった。戸棚の引き出しから財布を取り出すと、1000エーン紙幣を取り出して、代わりに少女から受け取った300エーンをしまう。
 ……それにしても、いい笑顔だったなぁ。少女の笑顔を思い出せば、私の頬にも自ずと笑みが浮かぶ。
 私はとても幸せな気分で会計台帳に『苺ミルク二個』と記入して、1000エーンを会計レジに入れた。


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