追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
「はい」
私が注文を受けて厨房に向かえば、カーゴはいつも通り鞄から分厚い本を取り出してスッと視線を落とした。
……だけど、私は知っている。
カーゴが本に目線を落としているのは最初だけで、気付くと接客をする私の様子を眺めている。おそらく、慣れない私の様子が気が気じゃないのだろう。
ちなみに店内に他のお客様がいない時は、私たちはよくとりとめのない話をしている。だからやはり、カーゴは本を読み進められてはいない。私としては読書の邪魔をするのは本意ではないのだが、話題を振ってくるのはいつも彼からだった。
……そもそも、どうしてカーゴはこんなに頻繁に店に顔を出してくれるんだろう? うーん、分からない。
私は注文品を用意する手だけは休めないまま、答えの出ない堂々巡りをしていた。
……よしっ、出来た! 完成した注文品を手に振り返れば、カーゴは閉じた本をカウンターテーブルの脇に避けた。
「お待たせしました」
私はカーゴが空けてくれたスペースに『いつもの』をドンッと置く。
「お、美味そうだ」
カーゴはスッと目を細くして微笑むと、ストロベリーパイにフォークを差し入れた。
「お昼食べたばっかりだよね? 今日もそのボリュームって、大丈夫なの?」