【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。

って、そう思ったのに。


「なにしてんの……。藍田さん」


真っ赤な顔で咎めるようにあたしの両手を引きはがして、姿勢を直す彼は
鬼の子かもしれない……。


「……は、離れて」


「……ごめんなさい」


あぁなんて、痴女。

恥ずかしくて消えたい。


でも、でも。


「灰野くん、心臓の音……すごい」


「こんなことしてたら……なるでしょ」


呆れっぽい声にドキドキする。




「そこか?!」


先生の声が近づいてビクッと体が震えた時。


「やば」


灰野くんはあたしを思いっきり抱きしめた。


まるで、守るみたいに。


細いけどしっかりした腕に抱きしめられたら、もう……ヤバい。


ドキドキドキドキ。


「灰野くん……」


もう、駄目だ。


「しぃっ」


灰野くんの手に力が入って、あたしを動かさんとばかりに力を加えられる。


「……あの」


「しぃ!!」


灰野くんの顎の下にあたしの頭が収まっている。

足と足がからまるみたいに触れて。


あたしが喋るのを阻止したいのかな。


口は、優しく彼の胸板でふさがれた。


……どうにかなりそう。

もうだめ。



「息できる?」

ごく小さい声が耳元に落ちてくる。


できるけど……できるわけない。


でもこのまま死んでもいい。



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