【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「なになに?修羅場?」
「ちょっと廊下待機で見てたけど、喧嘩してなかった?」
「痴話げんか?って、泣いてんじゃん……」
「え、まじ?」
クラスメイトの野次馬に気付いて、涙を拭う。
「はいはいー、外野さんたち散ってー」
ナギちゃんが広がりかけた嫌な空気を打ち消すように、笑いながらしっしっと野次馬を追いやっていく。
「おいで胡桃」
ナギちゃんの後ろについて、人の少ない渡り廊下に来た。
あたしはことのすべてをいつも通り、ナギちゃんにぶつける。
「んーこれは。山本が胡桃の鈍感さを知らないことに敗因ありだな」
話を聞いたナギちゃんはそう言って笑った。
話しても話しても楽にならない。
踏み台がどうのなんてもうどうでもいい。
あたしは、灰野くんを怒らせた。
それしか今は頭にない。
「灰野と話してきなよ。あいつ話したがってたじゃん」
「……うん。その場で言えばよかったのかな。踏み台にされたことが嫌でしたって?」
「それは言わなくていいだろ。代わりに聞いてみたら?灰野の言い分を、ちゃんと」
ナギちゃんは、優しい目であたしを見る。
「怖い?」
「そりゃあ……」
ちょっとは。いや、かなり。怖いよ。
「……ほんと、胡桃はしょうがないやつだなぁ」
その文句っぽい声は優しさばっかりだって、表情で知れた。