【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
灰野くんと付き合って少し経った頃。
『俺も胡桃のことが好きだったって言ったら、俺と付き合ってた?』
ナギちゃんにそう言われた時。
『あたしは灰野くんしか見てなかったと思う』
そう答えたあたしにナギちゃんはヘラっと笑った。
『友達でいよっかぁ』
ナギちゃんに背中を叩かれて、その話は終わったはずなのに、噂が広がって。
『何があったの?』
そう聞いた灰野くんに全部を伝えた時、彼がくれたのは、責めるでも怒るでもなく、
緊張で震えたあったかいハグだった。
灰野くんの腕があたしに伸ばされて。
こわれ物を扱うみたいに、おそるおそる指があたしの腕にふれた。
その腕は背中に回って、あたしを引き寄せる。
灰野くんの肩が頬をかすめて、ちくっとするセーターから柔軟剤が香った。
どうしようもないくらい、幸せだった。
抱きしめ返す余裕もなくて。
……なんて言ったんだっけ。
どうせろくなことを言わなかった。
だから、灰野くんは「ごめん!」といってあたしの体を離したんだ。
ちくりと胸が疼く。