【完】俺がどんなにキミを好きか、まだキミは知らない。
「ふたりとも遅いと思ったら、俺の話してんのー?」
突然飛んできた声にはっとして顔を上げると、廊下の窓をあけてナギちゃんがにぃーっと笑って手を振っていた。
「俺も休憩していー?」
「じゃあ俺戻る」
「そんなこと言うなよ、つれないねぇ」
窓を飛び越えてこっちに歩み寄るナギちゃんは、帰ろうとした灰野くんの肩をがしっと組んだ。
にやりと笑うナギちゃんの腕を灰野くんが迷惑そうに振り払って。
仲いいのか、悪いのか……。
「俺の好きな人は胡桃じゃないよ。なぁー、胡桃」
とあたしを向く。
「う、うん!」
ナギちゃんの好きな人の名前は知らないけど、あたしは喋ったことがない子だって、ナギちゃんがヒントを一度くれた。
多分、あたしはその子に会ったこともないんだと思う。
誰なのか名前は教えてくれないから、わかんないけど……。
そんなナギちゃんに背を押されるように速足で歩き始めると、ナギちゃんはあたしの耳もとに唇を近づけた。
「灰野ってわけわかんねーよなぁ。胡桃、ちょっと試したいことがあるんだけど」
ささやき声に首を傾げる。
「なに?」
「今から灰野をめちゃくちゃ煽ってやるから、ちゃんと見とけよ?」