セカンドラブは魔法の味
それから数日後。
幸弥が茜と交代する為に病院へやってくると、心優が歩いて来た。
白衣を着ていない心優。
白いブラウスに紺色のスラックスに、シンプルな黒い靴の心優。
勤務を終えて帰る途中のようだ。
「あ、桜本先生」
幸弥が声をかけると、心優はムッとした目で見た。
「いつも、娘がお世話になっています」
「いえ・・・」
「あの。以前の事ですが、どうして逃げてしまったのですか? 」
「別に・・・逃げたわけじゃねぇよ。・・・からかわれるの嫌だから、隠れただけだけど」
「僕がからかっていると、本気で思っているのですか? 」
「本気でって・・・あんたみたいな人が、なんで私なんかに・・・」
「貴女のどこが、いけないって言うのですか? 」
そう言われると、心優はそっと視線を落とした。
「あの、これだけは言っておきたいのですが。僕は、外見なんかで人を判断しません。ハートが動かないと、ダメなんです。だから、妻を亡くして10年。ずっと、誰にも気持ちが動きませんでした。こんな気持ち、久しぶりですぐに気づきませんでした。貴女の事が好きだなんて」
「・・・だから、勘違いしているって。あんたは」
「勘違い? それは絶対にありません」
「じゃあさ、あんたは自分の奥さんの事。殺した人間でも、好きになれるわけ? 」
「はぁ? 」
心優は冷たい目で、幸弥を見た。
「あんたの奥さん。京坂春子を殺したのは・・・私だよ・・・」
「ハルを・・・殺した? 何を言っているんです? 」
「だから、あんたの愛する奥さんを殺したのは、私なんだよ! 」
「殺しただなんて・・・」
「分かったら、二度と近づくんじゃねぇよ! 」
それだけ言うと、心優は足早に去って行った。