北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
ひるむ気持ちに活を入れて、もう一度ボタンを強く押してみる。
ピンポン♪がドアの奥から聞こえるのに耳を澄ましていると、プツッと音がした。
「あっ、あの、今日16時から面接の」
「……どうぞ」
自己紹介をさえぎって、男の声がした。
……あれ? 申込書にはたしか、小野里とめ子さん82歳って。
ものすごく声の低い老女も、いないことはない。崩れかけた笑顔を立て直して、ドアノブを回す。待っていてくれたのか、カギはかかっていない。
「失礼します」
中に入ったとたん、香ばしく焦げた香りとどこか草っぽい香りが漂った。
これ、たぶん線香だ、コーヒーの香りの。実家でも使ってた。コーヒー好きなおばあちゃんなのかな。
でも家の中には、だれもいなかった。かろうじて人が通れる獣道を残して荷物が点在する、まっすぐな廊下。並行して二階へあがる階段。どちらにも人の姿がまったくない。
ピンポン♪がドアの奥から聞こえるのに耳を澄ましていると、プツッと音がした。
「あっ、あの、今日16時から面接の」
「……どうぞ」
自己紹介をさえぎって、男の声がした。
……あれ? 申込書にはたしか、小野里とめ子さん82歳って。
ものすごく声の低い老女も、いないことはない。崩れかけた笑顔を立て直して、ドアノブを回す。待っていてくれたのか、カギはかかっていない。
「失礼します」
中に入ったとたん、香ばしく焦げた香りとどこか草っぽい香りが漂った。
これ、たぶん線香だ、コーヒーの香りの。実家でも使ってた。コーヒー好きなおばあちゃんなのかな。
でも家の中には、だれもいなかった。かろうじて人が通れる獣道を残して荷物が点在する、まっすぐな廊下。並行して二階へあがる階段。どちらにも人の姿がまったくない。