北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
「……はい」
 男はひどくゆっくりまばたきをした。
「わたくし維盛凛乃と申しまして、今日、家政婦の面接のお約束をさせていただいてまして」
「どうぞ」
 男は無表情のまま階段を下りると、ついて来いとでも言うようにUターンして背中を向けた。
「お邪魔いたします」
 あわててそのうしろについていく。物を避けて蛇行しながら廊下を進むと、階段下に隠れるように戸口があった。いまは襖が全開で、和室とその奥の縁側、さらに向こうに濡れ縁と庭が見えた。
「わ……」
 凛乃はかすかに声を漏らした。
 秘密の出入り口みたいで好きだ、この間取り。
「素敵ですね。わたし、将来、自分の家を建てたくて。こういうの参考に」
 言い終わるまえに、男はさっさと左側のドアの先に消えてしまった。
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