北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 そこはキッチンだった。古い家だと思っていたけど、キッチンはカウンター式で、リビングのほうを向いている。しかも腰壁と下がり壁に挟まれて、古ぼけた木枠と擦りガラスの室内窓がついていた。それを閉じれば、流しやコンロ、キッチンそのものが隠せる。家の中に家のセットがあるみたいにも見える。
 ここも好き。
 さっき話しかけたのも、お世辞じゃなくて本気のつぶやきだった。半開きの室内窓を閉め切ってみたくてうずうずする腕を、凛乃は無意識につかんだ。
「好きに座ってください」
 キッチンを背にした正面は、畳にカーペット敷きのリビング。中央には大きなコタツが、終わりかけの5月に負けじと自己主張している。ここも縁側と庭が見えるということは。
 右に目を向けると、襖が開け放たれて隣の和室とつながっていた。さっき隠れドアから見た部屋だ。着物箪笥の上には推測通り、小さな仏壇がある。やっぱり線香が立てられていて、コーヒー風の香りが濃く香っていた。
< 6 / 233 >

この作品をシェア

pagetop