北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅰ
 コタツに近づくと、左の窓際にキャットタワーや爪とぎらしきものが密やかに置かれているのが目に入った。ホコリをかぶって、全体が色あせている。ど派手なピンクのコタツ布団と手編みらしき上掛けをちらりとめくってみたけど、案の定、猫はいない。ちょっと残念な気持ちで、そっと戻した。
 男が背後のキッチンから缶コーヒーを二つ持ってきて、コタツの天板に置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 さすがに天板はきれいに拭きあげられていたけど、なんとなくコタツに入るのは遠慮して、コタツ布団を中に押し込むような形で腰を下ろす。
 向かい合わせに座った相手は、厚い前髪のカーテンのせいで、ちゃんと目が合ってるのかすら、よくわからない。
「……」
「……」
 切り出されると思っていた話が、いつまでたっても始まらない。
< 7 / 233 >

この作品をシェア

pagetop