卑劣恋愛
照れ屋な武の残像が、あたしのことを好きじゃない武へと変化していくのを感じる。


あたしは一度唇をキュッと引き結び、そして一歩智樹へ近づいた。


「わかった……認める。仮に武があたしのことを好きじゃないと、仮定する」


「仮定じゃない! 事実だ!」


手首を握りしめる力が更に強くなった。


あたしは智樹を睨み上げる。


そんなにあたしの気持ちを踏みにじりたいんだろうか。


「具体的に、どういう風に協力してくれるの?」


そう訊ねると智樹は「説明する前に、ちゃんと認めてくれ。じゃないと、協力はできない」と、くぐもった声で言った。


あたしを傷つけていることを理解していて、苦しんでいるようにも見えた。
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