My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
ドナの言う川までの道のりは思ったよりも平坦で歩きやすく(そういう道順を選んでくれたのかもしれないが)、手作りだというキャンドルランタンのお蔭である程度視界も利き安心して進むことができた。
しかし、背後から感じる黒いオーラが気になって、身体はずっと緊張しっぱなしだった。
「なぁカノン、なんであいつ怒ってんだ?」
流石にドナも気づいたのが、こちらに顔を寄せ小さく訊いてきた。
あいつ、とは言うまでもなくラグのこと。
あの後すぐに怒鳴られると思いきや、ドナがいるからなのか彼は一言も声を発しないで私たちの後ろをただついて来ていた。
頭に乗ったブゥもなんだか心配そうに相棒を見下ろしている。
そんな無言の怒気に押されるように進みつつ、私はドナに小声で言う。
「えーっと、私が銀のセイレーンだってことは本当は秘密じゃないといけなくって、なのに私がドナに話しちゃったから」
ドナはもう一度ちらっとラグを見た。
「でも、ならなんでついて来てんだ?」
「えーと……。私に何かあったら自分の呪いが解けなくなっちゃうから、仕方なく?」
「呪いって、あの小さくなっちゃうやつだろ? カノンが呪いを解くのか?」
「私も良くはわからないんだけど、私の歌が必要なんだって」
「そっかぁ、銀のセイレーンだもんな。やっぱ凄ぇな! あー早く聴きたい!」
「はは、でも、あんまり期待しないでね。ドナのおばあちゃんに比べたら全然上手くないと思うし、ほんと髪の色が変わるくらいだから」
「それも楽しみなんだ! きっと綺麗なんだろうなぁ」
そうドナが笑った頃、微かに川のせせらぎが聞こえてきた。
(そういえば、ツェリついて来なかったな……)
てっきり、ついて来るかと思ったのだが、彼はツリーハウスの下からピクリとも動かなかった。
ドナの言葉が余程ショックだったのだろうか。
これから歌う私にとっては好都合だったけれど、少し気になった。