My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「ここだ! ここに座って、ばあちゃんよく歌ってくれたんだ」
到着したのは岩だらけの幅5メートルほどの渓流で、その激しい水音だけでとても涼しく感じられた。
ドナが手を広げたそこには、座るのに丁度良い高さの岩があった。
川を背に、そこに座り気持ちよさそうに歌うノービスさんの姿と、それを聴くドナや子供たちの姿を想像して一人微笑む。
「そんで、歌に合わせてアタシはここで踊ってた」
「踊ってたって、ドナ踊れるの?」
思わず訊くと、ドナは照れくさそうに笑って頬を掻いた。
「ちゃんとした踊りじゃないけどな、ばあちゃんが歌ってるとさ、自然に体動いちゃって」
「あ、わかる! 私も楽しい歌聴いてるとつい体動いちゃう」
「だよな!」
そして笑い合う私たち。
ラグは一人相変わらずの不機嫌顔で近くの手ごろな岩に足を組んで腰かけた。
「ドナのおばあちゃんの歌、聴いてみたかったなぁ」
「アタシも、カノンに聴いてもらいたかったな」
「おい、さっさと始めろよ」
ついしんみりしてしまったところへ、ラグの怒声が割り込み慌てる。
「そ、そうだね、じゃあ、」
道中、どんな歌にしようかと考えて、ぽっと浮かんだメロディーがあった。
二人の思い出の歌である「埴生の宿」も歌いたかったけれど、また泣いてしまいそうで、それよりも今は楽しい歌がいいと思った。
このカラフルな島に合う、楽しげで、それでいて爽やかな海風が似合う歌。
そのリズムに合わせてドナに踊って欲しいと思った。
私はノービスさんが座っていたという岩に腰かけ、息を吸い込んだ。