クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 ふたりの間に沈黙が走り、一方でなにかが崩れていく音がした。 今まで冷え切っていた感情がじわじわと動き出す。私は目を細めて視線を落とした。

「うん、うん。ごめんね。亮、本当は何度も私に話そうとしてくれたんだよね。でも私が家の事情を受け止めきれないのもわかっていたから、言えなかったんでしょ?」

「違う。そんなのじゃない。汐里はなにも悪くないんだ。俺が勝手にあれこれ考えて言えなかった。もっと早くに話すべきだったのに……」

 やっと()に落ちた。腹を立てていたのは、絶望にも似た黒い感情を抱いていたのは、亮に対してでも桑名さんに対してもじゃない。私自身になんだ。

 彼と付き合って、それこそ四年近くにもなろうとしているのに、亮の抱えているものをなにひとつ理解していなかった。そばにいて彼の本音に寄り添うこともできなかった。

『私の方が彼を理解できるし、支えてあげられるんです。仕事面でも、プライベートでもね』

 お互いの気持ちがどうであれ、遅かれ早かれこの結末はきっと変わらなかった。些細(ささい)なすれ違いで片付けるには重すぎる。

 彼が大きな会社の社長の息子で、次期後継者だというのは揺るぎない事実だ。

 私は静かに自分の決意を口にする。

「今までありがとう。私、亮と付き合えてよかったよ」

 途端に亮が私の肩を掴む。顔を上げれば、亮の表情には今まで見たことがない必死さと狼狽(ろうばい)の色が浮かんでいる。
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