クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「悪かった。もう彼女には会わない。汐里が一番大切なんだ」

 その一言で私の頬に涙が滑る。我慢していたのに、両目の端から熱いものが溢れて止まらない。私は涙を(こら)えて懸命に笑った。

「亮のそんな顔、初めて見た。……よかった、私のこと少しは好きでいてくれたんだ」

「好きだよ! 好きでもないのに付き合おうなんて言わない。こんな何年も一緒にいて……」

 言葉を詰まらせる亮に私は頷く。わかっている。亮がいい加減な気持ちで私と付き合っていたわけじゃないのは。

 本当に皮肉だ。こんな状況になって初めて彼の口から「好き」と聞かされるなんて。

「ごめん。事情も話さずたくさん汐里を傷つけてごめん。けれど失いたくない。別れたくないんだ」

 私を抱き寄せる亮にさらに涙が止まらない。それでも私の決意は変わらなかった。

「ありがとう。ごめんね」

 謝るのは私の方だ。家の事情を黙っているのも、別の女性に会うのも罪悪感をまったく抱かない人じゃないのもわかっている。亮なりに苦しんで葛藤もあったに違いない。

 最後の最後で可愛くない言い方をして、亮を一方的に責めて、そんな顔をさせて。彼の願いも聞き入れられない。

 これからも当たり前に続いていくと思った彼との付き合いは、たった一日でなにもかもがひっくり返った。

 お互いに嫌いになったわけでもないのに、傷ついて傷つけ合う形で私たちは終わりを迎えた。
< 102 / 143 >

この作品をシェア

pagetop