クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「結婚するつもりはないけれど、親が言っているからとりあえず会う。別に付き合っている彼女がいて、その相手にも事情を話していない。亮の意思はどこにあるの?」

 最悪な場面に汐里を遭遇させて、今さらながら事情を説明しても彼女はただ、静かに聞いて淡々と返してきた。

 汐里の言い分はもっともだ。だが俺は意思もなくただ流されていたわけじゃない。

 家との関係でどうしようもないジレンマを抱えて、それでも汐里を諦められなかったし、手放すつもりもなかった。しかし彼女には伝わらない。伝わるはずもない。

「汐里に俺の家のことも抱えている事情も、なにもわからないだろ!」

 苛立ちと焦燥感が抑えきれず、声を荒げて返した。感情をぶつける相手を間違えている。すぐに後悔して謝ろうとするも、口火を切ったのは相手が先だった。

「うん、うん。ごめんね。亮、本当は何度も私に話そうとしてくれたんだよね。でも私が家の事情を受け止めきれないのもわかっていたから、言えなかったんでしょ?」

「違う。そんなのじゃない。汐里はなにも悪くないんだ。俺が勝手にあれこれ考えて言えなかった。もっと早くに話すべきだったのに……」

 痛みを堪えた顔で微笑まれ、やっと自分の考えが間違っていたのだと気づく。彼女をここまで傷つけて、自分の犯した過ちの大きさを自覚しても、全部今さらだ。

 付き合う前にわかっていた。汐里はおっとりしていて受け身な印象を抱かれがちだが、彼女はいつも真摯(しんし)に相手に向き合って自分の意見もしっかり持っている。

 素直で正直な分、変に取り繕ったりはしない。 汐里のためと言い聞かせて、結局俺は彼女を見くびっていたんだ。
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